同僚からの「いじめ」「無視」「仲間外れ」はハラスメントなのか?
1.同僚からの「いじめ」「無視」「仲間外れ」が、法的にハラスメントに該当する理由を理解できます
2.パワーハラスメントの要件である「優越性」が、上司・部下関係だけを意味しないことが分かります
3.「集団 vs 個人」という構図が、法的にどう評価されるのかを知ることができます
4.同僚間のいじめを放置した場合に、会社が負う法的責任の重さを理解できます
5.被害者・企業双方が、今何をすべきかの具体的な指針を得られます
見過ごされがちな「水平方向」の攻撃性
「ハラスメント」と聞くと、多くの人が、
- 上司が部下を大声で叱責する
- 無理なノルマを課す
といった、職務上の地位を利用した「垂直方向」(上司 → 部下)のパワーハラスメント(以下、パワハラ)を想像するでしょう。
このイメージは決して間違いではなく、実際に労働相談の多くを占める典型的な形態です。
しかし、職場における苦痛の源泉は、上司からだけとは限りません。
- 業務上必要な連絡事項を、自分だけ意図的に回してもらえない
- ミーティングで発言しても、特定の同僚たちから集団で無視される
- ランチや休憩時間に、自分だけが仲間外れにされる
このような「水平方向」(同僚 → 同僚)の「いじめ」「無視」「仲間外れ」は、上司からの叱責とは異なる、陰湿で継続的な精神的苦痛を与えます。
では、これらの行為は法的に「ハラスメント」として認められるのでしょうか。
そして、会社はこれらの「個人のいじめ」にまで介入する責任を負うのでしょうか。
結論から申し上げれば、「明確にハラスメントに該当する」というのが法的な答えです。
そして、会社がこれを放置することは、重大な法的責任を問われるリスクとなります。
本稿では、なぜ同僚間のいじめが法的なハラスメント、特に「パワハラ」に該当するのか、その 法的根拠 と 企業が負うべき責任 について詳しく検証します。
1.パワーハラスメントの法的定義
「優越性」の誤解
2019年の法改正(労働施策総合推進法)により、
- 大企業:2020年6月~
- 中小企業:2022年4月~
パワハラ防止措置を講じることが、事業主の法律上の義務となりました。
この法律および厚生労働省の指針では、職場における「パワーハラスメント」を、次の 3要件すべてを満たすもの と定義しています。
- 職場において行われる優越的な関係を背景とした言動
- 業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの
- 労働者の就業環境が害されるもの
この定義を見て、「同僚間には優越関係がないから、パワハラではない」と誤解されがちです。しかし、ここでいう「優越的な関係」とは、単に「上司と部下」という職務上の地位差だけを意味するものではありません。
厚生労働省指針が示す「優越的な関係」
厚生労働省の指針
(令和2年厚生労働省告示第5号)は、「優越的な関係」について、次のように明示しています。
- 職務上の地位が上位の者による言動
- 同僚・部下であっても、業務上必要な知識や経験を有し、その協力がなければ業務遂行が困難な者による言動
- 同僚又は部下からの集団による行為で、抵抗・拒絶が困難なもの
ここで特に重要なのが、「集団による行為」です。
一人ひとりとの関係は対等な「同僚」であっても、集団が結託して一人を対象にする場合、その個人は著しく抵抗が困難な立場に置かれます。
この「集団 vs 個人」という構図そのものが、法的に 「優越的な関係」 と評価されるのです。
同僚間いじめがパワハラに該当する理由
同僚による集団での
- いじめ
- 無視
- 仲間外れ
「集団」という優越的な関係を背景に業務の円滑な遂行を妨げ、人格を否定する(=業務の適正な範囲を超える)言動であり精神的苦痛を与え、就業環境を害するという点で、パワハラの3要件を完全に満たす行為となります。
2.会社(事業主)の責任
「個人の問題」では済まされない
「それは同僚同士の個人的なトラブルだ」
「会社が介入すべきではない」
そう考える経営者や管理職もいるかもしれません。
しかし、この考えは 法的に極めて危険です。
労働契約法第5条
使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。
この「安全」には、
- 身体的安全
- 精神的健康(メンタルヘルス)
も含まれる、というのが判例・通説として確立しています。
つまり、会社は、
- 他の従業員からのいじめ
- 同僚によるハラスメント
から労働者を守り、安心して働ける職場環境を維持する義務を負っているのです。
この点について、労働法学者である荒木尚志教授も、
使用者は、自己の指揮命令下で業務に従事する労働者の生命・健康を危険から保護すべき義務を負い、これには他の従業員によるセクハラ・パワハラからの保護も含まれる
と明確に指摘しています(『労働法 第5版』有斐閣、2021年、612–613頁)。
放置した場合の法的リスク
もし会社や管理職が、
- いじめの事実を把握していた
- 相談を受けていた
にもかかわらず、「当人同士の問題」として放置した場合、安全配慮義務違反となります。
その結果、
- 精神疾患の発症
- 退職への追い込み
といった事態が生じれば、
会社は、
- 労働契約法第5条違反
- 民法上の不法行為(使用者責任)
として、多額の損害賠償責任を負う可能性があります。
結論
いじめは「個人の問題」ではなく重大な「労務管理の問題」である
同僚からの
- いじめ
- 無視
- 仲間外れ
は、単なる人間関係のもつれではありません。
それは、法的にパワーハラスメントに該当し得る違法行為です。
被害を受けている方へ
「自分が弱いからだ」と、一人で抱え込む必要はありません。
それは、あなた個人の問題ではなく、組織の安全配慮義務に関わる問題です。
- いつ
- 誰から
- 何をされたのか
という 客観的事実の記録を持って、信頼できる上司、社内窓口、または外部の専門家に相談してください。
経営者・管理職の皆様へ
「水平方向」のハラスメントは、上司によるものと同等場合によってはそれ以上に陰湿であり、組織の生産性を著しく毀損する重大なリスクです。
- パワハラ防止方針への明記(同僚間も含む)
- 全従業員・管理職への研修
- 実効性のある相談窓口の設置・運用
いじめを「個人の問題」として放置せず、組織全体の労務管理課題として取り組むこと。
それこそが、従業員を守り、ひいては会社自身を法的リスクから守る唯一の道です。
会社は、同僚間のいじめであっても、放置すれば安全配慮義務違反を問われる可能性があります。
ハラスメント対策は、上司・部下関係だけでなく、職場全体を対象に考える必要があります。
