- 厚生労働省の「モデル就業規則」が、そのまま使えるものではない理由が分かります
- コンビニ特有の労働環境(24時間営業・シフト制・少人数運営)と、就業規則のズレを理解できます
- 勤務時間管理・休憩・懲戒規定など、労使トラブルに直結しやすいポイントを把握できます
- 「ひな形就業規則」を使い続けた場合に起こり得る、将来の紛争リスクを具体的に想像できます
- 自社の就業規則が、本当に事業実態を反映しているかを見直す視点が得られます
安易な「ひな形」利用に潜む罠
会社の設立や従業員の雇用にあたり、多くの事業主様が就業規則の作成を検討されます。その際、厚生労働省がウェブサイトで公開している「モデル就業規則」は、無料で入手でき、網羅的な内容であることから、大変便利なツールとして活用されています。
しかし、このモデル就業規則を、自社の事業実態を十分に吟味することなく、そのまま流用したり、一部の名称を書き換えただけで使用したりするケースが散見されます。
特に、24時間営業で多様な働き方が混在するコンビニエンスストアのような業態において、このような「コンビニ(間に合わせの)就業規則」を運用することは、将来の深刻な労働紛争の火種を抱え込むことになりかねません。
本稿では、なぜモデル就業規則の安易な流用が危険なのか、コンビニの労働環境の特殊性に焦点を当てて、その問題点を具体的に解説します。
問題点1:勤務形態と労働時間管理のミスマッチ
厚生労働省のモデル就業規則は、主に「始業午前9時、終業午後6時、土日祝日休み」といった、いわゆる正社員の固定的な働き方を念頭に構成されています。
しかし、コンビニの現実は大きく異なります。
シフト制と変形労働時間制
24時間営業を支えるのは、早朝・日中・深夜といった交代制のシフト勤務です。
1か月単位の変形労働時間制などを導入しなければ、
- 時間外労働の管理が煩雑になる
- 未払い残業代請求のリスクが高まる
といった問題が生じます。
モデル就業規則には、こうした変形労働時間制に関する具体的な運用規定(シフトの作成・通知方法、休日設定のルール等)が不足しています。
休憩時間
労働基準法は、次の休憩時間を義務付けています。
- 労働時間が6時間超:45分
- 労働時間が8時間超:1時間
しかし、少人数で店舗を運営するコンビニでは、従業員が一斉に休憩を取ることが困難なケースも少なくありません。
そのため、
- 一斉付与の原則の適用除外に関する労使協定の締結
- その内容を就業規則に明記
が不可欠ですが、ひな形では見落とされがちです。
問題点2:服務規律・懲戒規定の具体性の欠如
モデル就業規則に記載されている服務規律は、一般的なオフィスワーカーを想定した抽象的な内容が多く、コンビニ特有のリスクに対応するには不十分です。
服務規律
コンビニでは、例えば次のような極めて具体的なルールが必要です。
- 丁寧な接客態度
- レジ金の厳格な管理
- 食品衛生に配慮した身だしなみ
- 万引き等の不正行為への対応
- SNS等でのアルバイト従業員による不適切投稿の禁止
これらが明文化されていなければ、問題行動に対する注意・指導の根拠が曖昧になります。
懲戒規定
最も深刻な問題の一つが、懲戒規定です。
例えば、
- レジの売上金を抜き取る
- 商品を盗む
- 正当な理由なくシフトを無断欠勤する
といった、コンビニで起こりうる具体的な非違行為を、懲戒事由として列挙しておく必要があります。
判例法理上、懲戒処分を行うには、
就業規則に懲戒の種類と事由が明記されていることが原則として必要です(フジ興産事件・最判平15.10.10)。
この点について、労働法学者の水町勇一郎教授も、
懲戒事由や懲戒の種類が就業規則等で定められていなければ、
使用者は懲戒権を行使できない
と指摘しています(労働法 第8版/有斐閣、2020年、234頁)。
抽象的なひな形のままでは、いざという時に有効な懲戒処分を下せず、企業秩序を維持できなくなる恐れがあります。
問題点3:多様な従業員の雇用管理に対応できない
コンビニでは、
- 正社員
- 契約社員
- パートタイマー
- 学生アルバイト
- 外国人留学生
など、極めて多様な従業員が働いています。
しかし、モデル就業規則は、主に正社員を前提とした規定が中心です。
パートタイマー等の非正規社員について、
- 昇給
- 賞与
- 退職金の有無
- 契約更新の基準
などを正社員と異なる取り扱いとする場合には、その内容を就業規則(またはパートタイム就業規則)に明確に規定しなければなりません。
これを怠ると、
パートタイム・有期雇用労働法が求める
- 不合理な待遇差の禁止
- 待遇に関する説明義務
に違反するリスクが生じます。
結論
事業の実態を映す「鏡」としての就業規則を
厚生労働省のモデル就業規則は、あくまで就業規則の構成要素を理解するための「参考資料」です。
それを安易に流用して作られた「コンビニ就業規則」は、
その会社の実態を反映しておらず、労使双方にとってリスクの高い、いわば「時限爆弾」のような存在です。
就業規則は、単なる社内ルールにとどまらず、
個々の労働契約の内容を規律する法的な基盤となる重要なものです。
だからこそ、就業規則は事業の実態を映す「鏡」でなければなりません。
無用な労使紛争を未然に防ぎ、従業員が安心して働ける職場環境を整備するためにも、ぜひ一度、労働法の専門家である社会保険労務士にご相談の上、自社の実情に合ったオーダーメイドの就業規則を作成・見直しされることを強くお勧めします。
本コラムの内容にご興味を持たれ、さらに詳しい情報や具体的なご相談をご希望でしたら、お気軽にお問い合わせください。
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