【コラム】ワコールの「昇給ポイント分配方式」に学ぶ、絶対評価のメリットと評価現場に潜む罠

このコラムは・・・

1.ワコールが導入した「1点単価方式」の給与制度の仕組みと、経営視点での最大のメリット(原資管理の容易さ)が理解できます。

2.制度設計の美しさとは裏腹に、現場(評価者)を苦しめる「ポイント奪い合いの罠」と「中央化傾向」のリアルが分かります。

3.「全員同じ評価=全員同じ昇給額」という矛盾を防ぐために、他社の制度を導入する際、経営者が本当に考えるべき「運用力」の本質が理解できます。

目次

先日、労働新聞にて「株式会社ワコール」が非管理職向けに導入した、ユニークな給与改定システムについての記事が掲載されました。個人の評価結果(6段階の絶対評価)と等級係数をもとに「ポイント」を算出し、部署ごとに決められた昇給原資(予算)をメンバー間で分配するという「1点単価方式」です。標準評価を下回れば「降給(給与ダウン)」も辞さないという、非常にメリハリの効いた制度設計と言えます。

実は私自身も、これと似た「ポイント分配型」の仕組みを賞与制度で設計・運用した経験があります。今回はその実体験も踏まえ、この制度の経営的なメリットと、導入時に必ず直面する「運用面の罠(難しさ)」について解説します。

経営視点での最大のメリット:「徹底した原資管理」

このポイント分配方式の最大の長所は、昇給原資が事前に確定しており、管理が極めて容易であることです。

通常の絶対評価に基づく昇給制度では、評価の高い社員が多くなればなるほど、会社全体としての人件費予算は膨れ上がってしまいます。しかし、この仕組みは「決められたパイ(原資)を、評価ポイントに応じて切り分ける」という絶対ルールの下で動くため、会社が想定外の人件費増高リスクを負うことがありません。財務・経営陣から見れば、非常にコントローラブルで安心感のある制度です。

人事現場に潜む罠:「評価者の心理的負担」と「中央化傾向」

しかし、制度設計の美しさとは裏腹に、実際の運用現場(評価者である管理職たち)には極めて重い心理的プレッシャーがのしかかります。

ワコールのように標準未満は降給というシビアなスキームで、かつ原資のパイが決まっている場合、部下に対する評価は事実上のポイントの奪い合い(ゼロサムゲーム)になります。

評価者である上司は、A君に高い評価をつけて、その分、B君の評価を下げると、B君は確実に降給してしまう」という結果が、評価をつける段階で手に取るように分かってしまいます。 すると現場で何が起きるか。上司は部下の給料を下げる悪者になることを無意識に避けようとし、極端に高い評価も低い評価もつけられなくなります。結果として、「全員が当たり障りのない真ん中の評価(中央値)に集中してしまう」という評価傾向がどうしても生まれやすくなるのです。

「全員同じ評価」=「全員同じ昇給額」という矛盾

仮に、上司の心理的負担の結果として、部下全員に同じ「標準」という評価がついたとします。 ポイント分配方式において全員が同じ評価ポイントを持てば、計算上、全員が全く同じ金額の昇給に着地することになります。

これでは、本来意図していた「成果を出した者に報いる」というメリハリは完全に失われ、ただの横並びの給与改定に逆戻りしてしまいます。

結論:問われるのは制度ではなく「腹落ちさせる運用力」

このワコール型の仕組みは、非常に合理的で優れた制度であることは間違いありません。しかし、その本質が「限られた原資の奪い合い」である以上、「どこまで部下が腹落ちできる評価(フィードバック)ができるか」という運用面の難易度が極めて高いのが実情です。

会社の業績を伸ばし、競争力を高めるためには、耳の痛いフィードバックから逃げず、正当な評価を下せる管理職(評価者)の育成が不可欠です。

他社の画期的な人事制度を自社に導入しようとお考えの経営者様は、「制度の箱」だけを真似るのではなく、現場の管理職がそれを運用しきれるかという「リアルな心理面」まで踏まえてご検討されることをお勧めいたします。人事制度の構築や見直しに迷われた際は、ぜひ当センターまでご相談ください。

初回無料相談

まずは、貴社がどのような法的リスクを抱えているのか無料で可視化するところから始めてみませんか?(結果はレポートでご報告します)
すでにトラブルを抱えている場合は時間との勝負です。お気軽にご相談ください。

目次